誘導加熱(IH)装置により、熱した金属をハンマーやプレスで叩いて金属の強度を高める「鍛造」という技術。この装置に使われる重要な部品「誘導加熱コイル」は、長年使用すると何らかのトラブルが発生することも。そこで、羽衣電機では誘導加熱コイル製造のノウハウを活かし、コイルの修理を行なっています。そこで、工場見学スタイルでその作業工程をご紹介。働く現場の声を交えながら、ものづくりの魅力に迫ります!

♯さっそく修理を行う工場へ出発!

堺市にある羽衣電機の工場へ到着。昭和23年(1948年)に設立し、長きにわたり誘導加熱装置や誘導加熱コイルに関する実績を積み重ねてきた会社です。

①診断・解体工程

まずは修理依頼があった誘導加熱コイルの損傷具合を診断。「コイル銅管からの水漏れ」「コイル端子部分の破損」「コイル内外のセメントの更新」など、さまざまなトラブルを解決するために細部までしっかり調査した上で修理内容を決定し、解体工程へと進めます。「メーカーが同じでも、カスタマイズされているものも多く、一つとして同じものはありません。だからこそ、不具合をしっかり見つけ出すためにも、できるだけ時間をかけて丁寧に行なっています。一度解体してしまうと、元には戻らないので責任も重大ですね」と話すのは、現在5年目の清水さん。また、診断ではできるだけ元の部品を再利用できるよう心がけているのだとか。

②コイル補修工程

コイルの銅管部分に損傷がある場合は、損傷箇所を補修。そのなかには銅管同士を「ろう材」といわれる金属を用いて、ガス溶接で密着させる「ろう付け」と呼ばれる業務があります。「『ろう付け』は高度な精度と正確性が求められる作業なんですよ」と話すのは、連続鋳造の業務を11年経験後、当社に転職して2年目の佐藤さん。きめ細やかさは当然ながら、6種類あるろう材はそれぞれ扱いが異なり、金属の種類で方法も変わってくるなど、熟練された経験の積み重ねがものをいう職人の世界なんだとか。「難しい作業ですが、その一方で地道な経験の積み重ねが自らのノウハウになり、上達を実感できる手応えのある仕事です。ものづくりが楽しめる人はハマる仕事だと思いますよ」

③絶縁工程

コイルは電流を流して加熱させるため、コイル銅管に絶縁材を巻き付けることが絶対不可欠。ここでは補修を終えたコイルに絶縁材の巻き付け作業を行なっています。耐火用マイカテープを巻き、その上から耐熱ガラステープを何重にもテーピングしていきます。「コイルはそれぞれ形状が違うので、その形に合わせてシワにならないよう、隙間なくピッチリと巻き付けるのがコツです」と話すのは、現在10年目の新久保さん。1本1本を丁寧に、しかもスピードも求められるため、集中力や根気が必要な作業だとも。「細かい作業が多いですが、自分のペースでコツコツ作業できるので気に入っています。2m近い大きいコイルを巻き終えたときは達成感もひとしおです」

④セメント打設工程

コイルの内周部分に耐火セメントを流し込むのが「セメント打設工程」。耐火セメントがあることで、加熱した金属から発生する輻射熱からコイルを保護する役割を担います。「セメントを流し込む前に、図面を元に型枠を作成します。コイルの形状に合わせて一から設計し、水平・垂直が整った型枠をいかに仕上げるかが腕の見せ所で、経験を重ねることでようやくできる技術です」と話すのは、現在24年目の日根さん。出来上がった型枠にコイルをセットし、その中央には700本以上から最適な太さ・長さを見極めた打設芯を立てて、ようやくセメントが流し込めるそう。「セメントは固すぎても柔らかすぎてもダメ。気温や湿度などで固まり具合も異なるので、ちょうどいいあんばいに分量などを調整するのが職人技の一つ。何年この仕事に携わっていても、ちょっとした差異で変わってくるので、常に考えて仕事にあたることは必須です。与えられた仕事だけをする人じゃなく、物事を追及するのが好きな人には最適な仕事です」

⑤全体組立、最終検査工程

数々の工程を経て、補修した部品を組み立てた後は最終検査へ。まずは図面と照らし合わし、さしがねやノギスという計測器を用いて寸法に間違いがないかを徹底チェック。「平面図で展開された図面を見ながら、立体になったものを目視で計測するのは至難の業。しかし、考え方を柔軟にして、創意工夫すればこれが可能になります。ただ決められたことをするのではなく、自分たちで考えながら進められる。職人の知恵をフルに活かせる仕事です」と話すのは、現在5年目の福永さん。ほかにも、耐圧試験や流量検査、水圧試験など動作確認を行い、きちんと修理されたことを確認し、ようやくお客様の元に納品できるそうです。「細かい作業ばかりですが、ここが羽衣電機のクオリティを守る最後の要。信頼に直結する作業であると常に意識して作業にあたっています

♯まとめ

誘導加熱コイルの修理工程を見学して感じたのは、どの業務にも職人たちの知識と技術、経験がいかんなく発揮されているということ。工場業務というとシステマチックなイメージを想像しがちですが、羽衣電機は合理的に作業を進めつつも、その人だからこそできる蓄積されたノウハウと技術を融合することで、クオリティの高い仕事を実現しています。また、誰もが真摯に仕事に向き合いながらも、何かあればすぐにサポートしてくれるという、人と人がきちんと繋がった職場環境も印象的。ものづくりが好きな人や手先の器用さを発揮したい人、原因を突き詰めて解決することをおもしろいと感じられる人は、やりがいを持って仕事に挑める職場です。