学校卒業後2社に勤めて技術を磨き、1994年に羽衣電機に入社以降「超電導コイル」などさまざまな製品の立ち上げ段階から参画してきたベテランエンジニアの北村さん。豊富な知見やノウハウを活かして「羽衣電機の技術」を進化させて支え続けている北村さんに、最先端の研究を支える“ものづくりの舞台裏”などを語ってもらいました。

次世代の技術を支える、ものづくりの仕事。

──普段、どんなものをつくられているのでしょうか?

最近多く手掛けているのは大学の実験などで使用される、超電導関係のコイルですね。超電導コイルは極めて強力な磁場を作れるのが特徴で、その現象を用いてさまざまな研究が進められています。よく聞くのは「粒子加速器(編注:粒子を高速で加速させることで、非常に高いエネルギーを生み出す技術。がん治療などで実用化)」関連ですね。昨今の流行りだと超電導モーター(編注:ジェットエンジンの代替や空を飛ぶクルマなどへの応用が見込まれる次世代技術)の研究などに使われています。

研究設備全体の仕様などは大手重機械メーカーが担当し、私たちはそれに合うコイルを製作して納品しています。有名大学の教授と直接やりとりをして、イメージをカタチにするという機会も多いですよ。

──超電導コイルを始めたきっかけや、開発秘話はありますか?

2006年頃に、大手電力会社の研究所で使われる超電導コイルのオファーをいただいたのがきっかけですね。そこで製作に関するノウハウができて、あとは口コミで大学の研究室などに広がっていきました。開発についてのエピソードとしては、もうとにかく失敗の繰り返しでしたね。ただ、試行錯誤が成功につながる糧になり、ノウハウとなって身につくのです。

──ものづくり全体を担当されているそうですね。

時代的に「設計は図面を描くだけ」というところもありますが、私のものづくりの信念は「どのように製造されるかの過程も熟知しておかなければ、設計はできない」という考え方です。「ろう付け」といった専門分野は社内の職人にお任せしますが、設計後は自分の手でつくり上げて装置に組み込み、最後の検査も自ら行います。

61歳になっても発見と学びの日々。だからこそ面白い。

──仕事のやりがいを教えてください。

研究者の方などにお会いして「こんな風にして欲しい」といった要望を聞きつつ、コスト面も考えて設計するのが面白いところです。毎回新しいことへのチャレンジなので飽きることがない、奥深い世界ですね。失敗は数知れずありますし、苦労した分学びがあります。たとえば「図面から必要なところが抜けていた」ということも起こりますが、それをいかにリカバリーして物事を前に進めていくのかが腕の見せ所です。

──30年羽衣電機で勤めている中で、「変わったな」と感じることはなんでしょうか?

経営の多角化ですね。私が入社したころは大手電機メーカーの下請けがメインでしたが1990年~2000年代にかけて電力会社の設備投資が削減されるとともに、私たちの仕事も減少し、次のビジネスを模索している時期がありました。そのころから下請けではなくユーザーさんと直接やりとりをする、今の取引形態になっていったのです。そこから仕事の内容も「依頼をもらった製品を大量生産」するのではなく、一つひとつの部品づくりに向き合う今の体制に変わっていきました。

──後進の育成で、心がけておられることはありますか?

「育成」というよりも、パートナーとして一緒に仕事をしながら覚えてもらうスタンスですね。やはり座学だけでは限界があるので、現場に入り実際に手を動かして経験を積み重ねることがプロになる道だと考えています。

好奇心旺盛✕チャレンジ精神は、プロへの切符になる。

──転職後、ずっと羽衣電機でお勤めですが、優れた技術をもつ北村さんが長く働き続けている要因となっていることはなんでしょうか?

私の場合は、羽衣電機に入社してから技術顧問として指導をしてくださっていた大手電機会社OBの方に可愛がっていただき、設計のやり方を学んだだけではなく、ご縁もつないでいただけたことでさまざまな方との巡り合わせがありました。それが当社でずっと働く礎になっています。最初の1年は製造の業務をしていたのですが、新しいことに挑戦することが好きなので何年もそのままだったら辞めていたかも知れません(笑)。

──「羽衣電機はこんな人に向いている!」という人物像を教えてください。

「好奇心旺盛な人」に向いていると思いますね。自由な社風なので、好きなことに挑戦できるのが魅力だと思います。今の若い方は堅実型なので「冒険したくない」という方も多いかも知れません。しかし「あんな部品があると便利だ」と思えば自分で作ればいいと思いますし、「こんな会社にしたい」と感じた場合は新しい仕組みを提案すれば改善につながります。そこを「言われたことだけすればいい」「時間がもったいない」というマインドで受け流すタイプだと、当社の仕事は面白くないでしょうね。

ものづくりは、やりがいと苦労が紙一重の世界。私も長年やっていますが、今でも図面を引いているときはプレッシャーに押し潰されそうになります。でもそれを乗り越えたとき、苦労以上の達成感を得られる仕事ですね。