羽衣電機では個人の役割に応じて7つの等級を定めています。明確かつ客観的な人事評価制度が導入されており、組織全体のフェアな風土や体制の土台のひとつとなっています。また、人材育成のための制度づくりに注力しているのも特徴です。今回は北田代表に人事評価や育成制度が生まれた背景、その運用方法などを詳しく伺いました。

最初に取り組んだのは「整理整頓」。改善と生産性の向上を同時に推進する。

──最初に取り組まれた「社内の改善」について教えてください。

まず身近なところから着手していこうということで「整理整頓」から始めました。掃除は行き届いていてキレイだったのですが、工具などの置く場所がバラバラで非効率的だったのです。そこでまず、工具やロープといった普段使う用具の“住所を決める”ことからスタート。使いたい工具が一目でわかるようになり、作業スピードの向上につながっています。あと、細かいところですが「置く場所」にも配慮したことで「後ろのものを取り出しにくい」といったストレスからも開放されました。今では工具も用具や指示書の場所も、一目瞭然です。

──人事評価制度を取り入れるに至った背景を教えてください。

社員からの、具体的に何をすれば、会社から評価されて昇進などにつながるのか「明確な基準を定めて欲しい」という強い要望があったのが大きな理由です。制度の作り込みは1年程度かけて幹部社員達と一緒に行いました。まず、羽衣電機で仕事をするにあたっての「あるべき姿」について評価する立場にある幹部社員間で価値観のすり合わせを行いました。そして共有した「あるべき姿」を入社年次や年齢、経験別に整理。それをもとに当社の「人材要件」として具体的な人物像や業務行動、対人行動といった項目で制度としてまとめていきました。運用ルール自体はシンプルで、年に1度業務行動と対人行動および個人目標の成果の等級制度により1年間の貢献を評価しています。

「技術を磨きたい!」という本能を、外部の技術顧問がバックアップ。

──研修で大切にされている理念は、どのようなことでしょうか?

大きくわけて「技術」と「視座」の双方を高めることに主眼を置いています。具体的に行なっているものとしては、「他社見学」があります。自社には無い取り組みを実地で学び、他社の職人たちとの交流を促進しています。次に、テーマを決めて社内研修や合宿といったワークショップを実施。普段どうしても「目の前の仕事に一生懸命」になってしまうので、ワークショップを取り入れることで、自分の担当以外の情報を吸収したり、ほかの社員の業務内容を知ったりする機会になり交流も深まります。俯瞰的な視点で、当社を見る目を養うこともできます。そうやって「技術」と「視座」を高めることで、普段の会議の打ち合わせの密度も濃くなり、仕事に対するアプローチも変わってきます。

──技術力を高めるために、外部から技術顧問を招集してらっしゃるのですね。

職人一人ひとりの気持ちとして、「技術を磨きたい」という強烈な本能があります。ただそれだけでは“俯瞰的な視点”が入らないので、会社としてチーム全体の目線を一段引き上げるためにも、優秀な技術顧問をお招きしています。顧問の先生は、元大手電機メーカーのOBの方で「こんな案件の場合、こうした電気回路が必要。そのためには、どんな計算が求められるのか?」といった、具体的な案件に基づいて専門的にわかりやすくアドバイスをしてくださいます。加えて、付随する周辺の知識もレクチャーしていただけるので本当に有り難い存在です。社員のモチベーションアップにもつながっています。

小さな気づきや学びの積み重ねが、いつしか大きな変革に。

──研修などを経て感じたエピソードはございますか?

実際のところ「この資格を取ったから、すぐにこの仕事ができるようになった」「この研修を受講したことで、大きな変化があった」といったすぐに結果になって現れることは稀です。ただ、例えば製造担当者が、品質管理担当者との交流の中で「ここでのつまずきが、不良品につながる」といった小さな気づきを得て、行動が徐々に変わっていく様子を目にすることは多いです。総合的な学びを経て、「少し変化が現れたな」と感じたときには、既に大きな改善や変革が起こっています。先述した「整理整頓」も最初からうまくいったわけではありませんが、毎日の積み重ねが現在につながっています。

ワークショップや合宿、他社の工場見学といった能力開発に向けたプログラムは、即時性を追求するというよりは、会社全体を進化に導く力を培うために、「社員一人ひとりが組織をいかに良くしていくのかを考え実行していく」ことを長期的展望に立って目指しています。そして、教育にも改善にも役立つという“一石二鳥”のオリジナルの研修と考えています。

──これから手掛けてみたい「新たな研修」などはございますか?

技術者以外の方をお招きする研修を、やってみたいという気持ちがあります。実はコロナ禍の影響で無くなってしまったのですが、障がいをお持ちの車椅子のお子さんとお母様で、一緒に活動をされている方をお呼びする計画を立てていました。常に前向きな発言をされる方なので、そうした「普段の仕事とは関係のないところで活躍されている方」のお話を聞いてもらいたいと思うのです。私個人の想いとして、人の成長の方法は「本を読む」「人に会う」「環境を変える」の3つがあると考えています。そうした考えに基づいて、社員たちの意見を汲み取りながら、色々と新たに企画したいところです。