羽衣電機では、個人の役割に応じて7つの等級に振り分け、年に1回「業務行動/対人行動および個人目標の成果により評価」するという、定量的でフェアな人事考課制度を導入しています。今回はその成り立ちや制度の内容、そこから生まれたエピソードなどを北田代表に語ってもらいました。

新しい仕組みへの不安を払拭。客観性を担保する制度へ。

──どのような経緯で、制度設計に着手されたのでしょうか?

「明確な判断基準が無ければ、全員が納得する評価は難しい」という前提がありました。経営者の視点だけで決めてしまうと、どれだけ「公平さ」を追求したとしても属人的な部分を解消することはできません。たとえば、細かい話ですが同じような「評価したい出来事」があったとしても、1年前と現在では印象が変わってしまいます。そこで、定量的でブレない制度を設計するため、部署ごとの代表が月1回集まり、じっくり半年ほどかけて決めていきました。

──決めていく上での苦労などはありましたか?また、会議の内容を教えてください。

制度は7等級に分かれており、客観的な評価となる「モノサシ」を決めて、昇格や降格を決める仕組みです。なかでも「モノサシの定義づけ」は苦労したところで、「この業務行動が評価につながる」など、丁寧に決めていきました。評価制度は「頑張っている人が報われるため」が趣旨であり、降格になった事例はありません。会議そのものはコンサルタントに入ってもらい、プロの技術で導いてくれたので、全員の意見を吸い上げるような建設的なものだったと思います。大変さを感じたのは、できあがった制度を全社員に説明する段階でした。「新しい仕組みへの拒絶感」や「降格させられるのでは?」と思う社員もいたので、趣旨を丁寧に伝えることで不安を払拭しました。

経営に対する当事者意識が芽生えるきっかけに。

──考査の仕方について、お聞かせください。

本人とその上司がそれぞれに評価を所定のシートに記入した内容を基にして考査しています。昇給については「S~D」まで点数に応じた5段階のランクに区切っており、ランクに基づきシステマチックに決まる仕組みです。また、毎回課題を紙に書いて渡し、それを乗り越えてもらうことで成長促進の一助としています。たとえば「この業務を任せたら右に出る者はいないが、ある領域の仕事に前向きさが足りない」という場合、言語化して伝えることで行動が徐々に変わってきました。

──社員のみなさんの反響について教えてください。

「導入されて本当に良かった!」というような反応は正直なところありません(笑)。ただ、制度の導入により年1回必ず面談する場を設けられたことで、組織に対して感じていることを吸い上げたり、こちらも本人に期待していることを伝えられたりと、良い機会になっています。制度をきっかけとして社員の意外な一面や成長を感じられる機会が増えました。

面談のときは、基本的に私はあまり喋らないようにして、アイスブレイクを交えるなどして社員の話を引き出すことに注力しています。すると、現場での改善点などが浮かび上がってくるので、経営における意思決定に役立っています。なかには「業務改善のために、こんなことをしました」と、プレゼンのような資料を用意する社員もいて、頼もしさを感じますね。あとは、「新型マシンの採用」「パソコンを新しくしてほしい」といった要望を、直接ヒアリングできる機会にもなっています。

──制度の導入で、変化を感じたエピソードはありますか?

社員1人ひとりが管理職と話す機会ができたことで、たとえば自己採点の点数が低いときに「どうしてですか?」と深掘りするなど、コミュニケーションをとる起点になっています。あと、以前は私が「そろそろあの社員の昇給を考えているけれど、どう思いますか?」と問うと、「いいと思います」という同調する答えがほとんどでした。導入後は、「もう少し、様子を見てから決めましょう」といった具合に、制度を基準として自分の意見を出してくれる管理職が増えたので、経営に関する当事者意識が強まったと認識しています。

再定義した企業理念を軸に、新たな挑戦を続ける。

──今後の制度設計について、どのようにお考えでしょうか?

制度設計に関しては、現状の評価項目が定性的なものが多くなっているので、定量的なものを交えてより成長が評価に結びつく制度に進化させたいと考えています。

今、当社は過渡期を迎えているところです。組織的には20年以上のベテランが33%、10年超が27%、5年~10年未満が8%、5年以下が32%という比率になっています。技術の継承を考えたときに採用は強化せざるおえません。新人やベテラン問わず、正当な評価がなされるよう、メンバーとともにブラッシュアップしていきます。

──最後に、これからの方向性を教えてください。

人事考課制度を設計する以前に、当社では企業理念の“絵解き”を実施。『奉仕』とは貢献であり、『誠意』とは顧客へ貢献する心であるといった、言葉の再定義を行いました。そこで出てきたのが「正直&熱心にコトに当たる心を持ち、モノづくりを通じて人々の役に立ち、新しいモノ&技術で社会に貢献できる存在であり続ける」という方針です。

そのためには、たとえ失敗に終わったとしても、保守的にならずに「新しいものにチャレンジし続けること」が大切だというのが、私の強い気持ちです。人事考課制度を推し進めることで、企業理念の解像度をさらに高めていきます。